後見・保佐・補助

1.後見とは
後見とは、判断能力がほとんどなくなってしまった人に適用されるものです。
後見では、家庭裁判所に選ばれた法定後見人が法定被後見人を法的に支援・保護します。
判断能力がほとんど失われてしまうと、日常生活を営むことすら困難になる場合が多くなります。そのため後見では、生活全般にわたって法定後見人が法定被後見人を広範囲に保護します。また後見は、法定後見制度の中で最も利用者数が多く、全体の約8割を占めています。
法定後見人は、これらの権限を用いて、法定被後見人の財産を管理するとともに、様々な契約等を本人に代わって行い、また本人にとって不利益な契約を取り消すなどして、法定被後見人を保護します。

2.保佐とは
保佐とは、判断能力が相当程度低下してしまった人に適用されるものです。
保佐の対象者は、日常的な事柄は一人でできても、不動産取引等の重要な法律行為を一人で行うのは不安があるような人です。
保佐は、そのような重要な法律行為を保佐人が法的に支援することによって、本人を保護することを重視しています。
仮に、被保佐人が保佐人の同意なしに単独で契約等を行い、それに失敗したときは、その契約等を後で取り消すことによって本人を保護することができます。 

3.補助とは
補助とは、判断能力がある程度低下してしまった人に適用されるものです。補助では、補助人が被補助人を法的に支援します。
補助の対象者は、日常生活については特に問題ない場合が多いといえます。
ゆえに補助では、本人が一人で行うのは難しい事柄について、補助人に必要な範囲で個別に権限を付与して、いわばオーダーメイドの形で被補助人を支援することを重視しています。

※画像中の補佐は保佐の間違いです。

法定後見のメリットとデメリット

法定後見のメリット
本人が認知症等で判断能力が無くなってしまうと銀行口座は凍結されてしまい、ご家族でも預金をおろすことができなくなってしまいます。
法定後見人はその凍結された預金を引き出して、ご本人のために使うことができるようになります。また法定被後見人の不動産の売却なども、家庭裁判所の許可を得て後見人が行うことができます。メリットというよりは法定後見制度の目的のひとつといえるかもしれません。
法定被後見人のおこなった契約は法定被後見人や法定後見人が取り消すことができます。判断能力のない法定被後見人が詐欺にあったりして締結した契約を、その後、取消すことができる強力な権利です。この権利は任意後見人や家族信託の受託者などには無い権利になります。
法定後見人の行なった事務は必ず家庭裁判所に報告する義務があります。
また、自宅の売却など、大きな財産の処分や変更などをおこなう場合は家庭裁判所の許可が必要になってきますので、同居している家族、親族による本人財産の使い込みや、法定後見人による財産の横領なども厳格な管理のもとで防止することができます。

法定後見のデメリット
法定後見制度を利用するにあたり、その申請にかかる書類などをそろえると、本人に対する医師の鑑定料などで約10万円以上かかる場合があります。
その他に専門職へ書類の作成や届出を依頼すると別に報酬として数十万円かかりますが、もっと重い負担となるのは毎月2万円~6万円ほどかかる法定後見人への報酬です。金額に差がありますが、報酬額は家庭裁判所が本人の財産額等を参考に決定するので当事者同士で勝手に報酬額を決めることはできません。
また、法定後見人制度を利用すれば原則的に本人が死亡するか判断能力を回復するまで続きますので、報酬も毎月発生し続けます。
仮に認知症の方が70歳で法定後見制度を利用して、報酬額が2万円であったとしても、その後85歳まで存命であれば1年で24万円×15年=360万円ということになり、死亡するまで360万円、法定後見人に対する報酬がかかります。
家庭裁判所の監視が入るので、家族や後見人の不正は防止される反面、柔軟な財産の運用はできなくなります。法定後見制度を利用すると本人の財産は本人の生活のためにだけに使われることになり、株などの投機的な運用はもちろん、不動産の売却なども、その不動産を売却しないと生活費が無い場合や、施設入居ができない場合など、かなり必要に迫られた時でないとできなくなります。家庭裁判所の管理はかなり厳格で、今まで家族のために使っていた本人の財産も使うのが難しくなります。また本人の子が事業資金を銀行から借りる場合など、法定被後見人である本人所有の土地や建物に抵当権を設定するなどの行為も本人の財産を危うくする行為なのでできません。
まさに法定後見制度は本人のためだけの制度で、ご家族や他の人のためにはその財産を使うことができなくなります。
家族が後見人に就任できる確率としては、かなり低いと言わざるを得ません。割合的にはだいたい4件に1件程度です。あとの3件は弁護士、司法書士、行政書士などの専門職が就任するケースです。後見人の選任も家庭裁判所が決定しますが、これについては不服申立てができないので、ご家族の希望にそぐわない人(弁護士や司法書士等)が後見人になっても変更することができません。専門職が後見人に就任した場合、今まで見たこともなかった人が訪問し、ご本人の預金通帳や土地の登記済証、株券や保険証など、財産に関する一切合切の書類を持って行ってしまいます。後見事務を遂行するにあたっては絶対に必要なものなので仕方ないのですが、本人やご家族にとっては抵抗があるかと思います。
法定後見制度は1度利用をはじめると、基本的にはご本人が死亡するまで続きます。ですので、申請して希望した人が後見人に選任されなった時も制度の利用を止めることはできませんし、申請した目的が達成された場合でも、その行政書士はずっとご本人の後見人でありつづけます。認知症などで判断能力がなくなった後において、相続税対策はできなくなります。法定後見制度を利用しても基本的に相続税対策は本人のためではなく、相続人のためであるので相続税対策はできません。

弁護士や司法書士が教えたくない任意代理契約

親が高齢になると、有料老人ホームの入居一時金や医療費の支払いなどで、まとまった金額を引き出したり振り込んだりする場面が増えます。
親が自ら金融機関に出向くのが難しい場合、家族が代わりに金融取引をするためには「任意代理」の仕組みを使うと便利です。
事前に銀行へ任意代理人を届け出ておけば、任意代理人が預金の引出しをすることが可能になります。ただし、任意代理人の届出制度を設けるか否かは銀行により異なります。また、届出されていた任意代理人との取引であっても、事案によっては銀行が取引に応じてくれない可能性はあると考えられます。
任意代理人が代理届を提出する際には、「どんな取引を、どのくらいまで代理できるのか」を委託者が決めなければなりません。例えば「預金口座からの引き出しと振り込みを1回100万円まで」などという形で決めます。
各金融機関で、「代理届」のひな型が用意されていますので、代理契約・任意後見契約の公正証書を銀行に持参すれば、それほど難しくなく、手続きできるでしょう。 
また、証券会社での株式取引も、名称はまちまちですが「代理届」に類する手続きがあります。この届出を行っておけば、現物取引の銘柄や売り買いの時期、価格まで子どもが判断できます。ただし損失リスクの大きい取引はできない場合があるので、確認しましょう。

任意後見のメリットとデメリット

任意後見のメリット
後見人は、判断能力が低下する前に選ぶ必要があるので、親族や友人など自分が信頼を寄せる人を選ぶことができます。
また、信頼できる人であれば自分の希望を気兼ねなく伝えやすいかと思います。そのため、体調が悪くなったときに入りたい施設や病院選びなど、希望に合った支援を望むことができます。
さらに、家庭裁判所の任意後見監督人が後見人の支援内容を監視しているため、お金を使い込むなどの不正行為の抑止力になっています。
このように、事前に後見人を準備しておくことで、判断能力が低下した時でも安心して生活の支援を受けられるメリットがあります。

任意後見のデメリット
任意後見人制度は、どちらかの死亡によって契約は終了となります。
そのため、死後の財産管理や葬式の手配などを行うことができません。
また、本人が後見人不在の状況で悪徳商法と契約した場合、財産を守るためにその契約を取り消す権利(取消権)がありません。
そして、任意後見人制度は本人の判断能力低下によって利用開始となります。
そのため、本人の判断能力がどの程度なのかを見極める必要があります。
しかし、後見人が同居していない場合の判断は難しく、開始タイミングが遅れてしまうデメリットがあります。

任意後見とは

任意後見とは、認知症や障がいなどで、将来自身の判断能力が不十分となった後に、本人に代わってしてもらいたいことを備えるための制度です。
本人の判断能力があるうちに、自己の生活、財産管理や介護サービスの締結といった療養看護に関する事務の全部または一部を信頼できる方に依頼し、引き受けてもらうための契約を結びます。委任する内容は公正証書によって定められるものです。
依頼する本人を委任者、引き受ける方を任意後見受任者(後に任意後見人)といいます。
任意後見の手続にかかる概算費用は
①任意後見契約を結ぶ際の公正証書作成手数料 2~3万円
②任意後見を開始する際の任意後見監督人選任の申立費用 1~2万円
③任意後見人への報酬 1~3万円(毎月 親族の場合費用のかからないことも)
④任意後見監督人への報酬 2~3万円(毎月 所得が高いとそれ以上)
※家庭裁判所が、本人の認知症に対する鑑定費用が10万円程度かかることもあります。
任意後見人の候補者は比較的親族の主張が通りますが、任意後見監督人については、家庭裁判所が弁護士、司法書士、社会福祉士等を選任することが多いです。 

家族信託のメリットとデメリット

家族信託のメリット
契約を結ぶ相手が信頼できる家族や親族であり、家庭裁判所を介する必要がありません。
生前の認知症対策として、本人の財産管理を確実にするために利用されるのですが、一方で管理している財産の商人先を事前に決めておく遺言的機能も持ち合わせています。
遺言は、次の承継先しかしていできませんが、家族信託は、「自分が死亡したら妻へ、妻が死亡したら息子へ承継させる」というように二次相続により承継先を指定することができます。また、家族信託は、財産管理をする受託者に継続的な報酬を支払う必要がありませんので、費用負担の面から安心できると言えます。
さらに、家族信託を利用すれば、本人が元気なうちから財産管理や活用を、あらかじめ信託契約で定めた家族などに託すことができます。
万が一、委託者が認知症になっても、継続して家族が財産管理をしていくことができます。

家族信託のデメリット
家族信託を利用するためには、事前に本人と家族が信託契約を結ぶ必要があります。認知症発症後では、本人に判断能力がないので信託契約を結ぶことができません。
また、家族信託は財産管理を目的とする制度ですので、身上監護権が与えられません。身上監護権とは、本人の代わりに住まいを確保したり、介護施設などへの入所手続や入院など医療に関係する手続を行うことで、日常生活のフォローだけでなく、本人の生活環境を整えることまで範囲が及びます。

家族信託

家族信託とは、資産を持つ方が、自分の老後の生活や介護等に必要な資金の管理及び給付に従って、その保有する不動産や預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、管理や処分を任せる仕組みです。
受託者は、財産上の所有者という立場になるので、財産の名義も受託者になります。そして、信託目的の範囲内で、信託財産の管理や運用に関する大きな権限と義務を持ちます。
また、信託契約の内容によっては、新たな不動産の購入や借入行為ができます。
さらに、受託者は信託契約に基づいて、家庭裁判所の介在なく財産を管理できます。この点が、任意後見や法定後見と異なります。
家族信託の手続にかかる概算費用は、
①公正証書作成費用 3~10万円
②信託登記にかかる登録免許税 固定資産評価額の0.3~0.4%
③専門家へのコンサル費用 信託財産評価額の1.1%程度
④信託契約書作成報酬 10~15万円
⑤信託登記報酬 10~15万円
信託銀行を経由して手続きを勧めると、140~150万円と割高になりますし、資金管理が家庭裁判所の介在が必要ないことで、悪質な受託者からいいように引き出すような問題も多くありますので、契約前にしっかりと内容を把握することが重要です。

成年後見と家族信託の違い

ご家族の財産管理をするために、法定後見・任意後見・家族信託のどの制度がいいのかよく聞かれます。

本人が認知症になってからは、法定後見の道しかないのですが、家庭裁判所の判断によっては、後見人や後見監督人の報酬が多大な負担となり、悪徳士業の悪しき温床となっています。

次回より、それぞれの内容やメリット・デメリット及び手続にかかる費用等(概算)をわかりやすくご説明します<m(__)m>…

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