法定後見のメリットとデメリット

法定後見のメリット
本人が認知症等で判断能力が無くなってしまうと銀行口座は凍結されてしまい、ご家族でも預金をおろすことができなくなってしまいます。
法定後見人はその凍結された預金を引き出して、ご本人のために使うことができるようになります。また法定被後見人の不動産の売却なども、家庭裁判所の許可を得て後見人が行うことができます。メリットというよりは法定後見制度の目的のひとつといえるかもしれません。
法定被後見人のおこなった契約は法定被後見人や法定後見人が取り消すことができます。判断能力のない法定被後見人が詐欺にあったりして締結した契約を、その後、取消すことができる強力な権利です。この権利は任意後見人や家族信託の受託者などには無い権利になります。
法定後見人の行なった事務は必ず家庭裁判所に報告する義務があります。
また、自宅の売却など、大きな財産の処分や変更などをおこなう場合は家庭裁判所の許可が必要になってきますので、同居している家族、親族による本人財産の使い込みや、法定後見人による財産の横領なども厳格な管理のもとで防止することができます。

法定後見のデメリット
法定後見制度を利用するにあたり、その申請にかかる書類などをそろえると、本人に対する医師の鑑定料などで約10万円以上かかる場合があります。
その他に専門職へ書類の作成や届出を依頼すると別に報酬として数十万円かかりますが、もっと重い負担となるのは毎月2万円~6万円ほどかかる法定後見人への報酬です。金額に差がありますが、報酬額は家庭裁判所が本人の財産額等を参考に決定するので当事者同士で勝手に報酬額を決めることはできません。
また、法定後見人制度を利用すれば原則的に本人が死亡するか判断能力を回復するまで続きますので、報酬も毎月発生し続けます。
仮に認知症の方が70歳で法定後見制度を利用して、報酬額が2万円であったとしても、その後85歳まで存命であれば1年で24万円×15年=360万円ということになり、死亡するまで360万円、法定後見人に対する報酬がかかります。
家庭裁判所の監視が入るので、家族や後見人の不正は防止される反面、柔軟な財産の運用はできなくなります。法定後見制度を利用すると本人の財産は本人の生活のためにだけに使われることになり、株などの投機的な運用はもちろん、不動産の売却なども、その不動産を売却しないと生活費が無い場合や、施設入居ができない場合など、かなり必要に迫られた時でないとできなくなります。家庭裁判所の管理はかなり厳格で、今まで家族のために使っていた本人の財産も使うのが難しくなります。また本人の子が事業資金を銀行から借りる場合など、法定被後見人である本人所有の土地や建物に抵当権を設定するなどの行為も本人の財産を危うくする行為なのでできません。
まさに法定後見制度は本人のためだけの制度で、ご家族や他の人のためにはその財産を使うことができなくなります。
家族が後見人に就任できる確率としては、かなり低いと言わざるを得ません。割合的にはだいたい4件に1件程度です。あとの3件は弁護士、司法書士、行政書士などの専門職が就任するケースです。後見人の選任も家庭裁判所が決定しますが、これについては不服申立てができないので、ご家族の希望にそぐわない人(弁護士や司法書士等)が後見人になっても変更することができません。専門職が後見人に就任した場合、今まで見たこともなかった人が訪問し、ご本人の預金通帳や土地の登記済証、株券や保険証など、財産に関する一切合切の書類を持って行ってしまいます。後見事務を遂行するにあたっては絶対に必要なものなので仕方ないのですが、本人やご家族にとっては抵抗があるかと思います。
法定後見制度は1度利用をはじめると、基本的にはご本人が死亡するまで続きます。ですので、申請して希望した人が後見人に選任されなった時も制度の利用を止めることはできませんし、申請した目的が達成された場合でも、その行政書士はずっとご本人の後見人でありつづけます。認知症などで判断能力がなくなった後において、相続税対策はできなくなります。法定後見制度を利用しても基本的に相続税対策は本人のためではなく、相続人のためであるので相続税対策はできません。