成年後見制度は、お金持ちの高齢者のものと捉える人が多いのですが、成年後見制度の利用者の4割は65歳以下で、知的障害、精神障害、高次脳機能障害などを持つ方々が利用しています。障害者の後見をめぐる惨状は高齢者後見トラブル以上に酷く、その実態を見て、「障害を持つ子を天国に一緒に連れていきたい」と嘆く親御さんもいます。しかし、それもできないわけで、障害者に関する後見の現実に向き合い、現状を打開していくしかありません。
以下、「何とかしてほしい」と後見の杜に寄せられた実際に起こった事例を紹介します。
「成年後見制度の落とし穴」著者 宮内康二 発行元 株式会社青志社
交通事故の賠償金をめぐり裁判所に一矢報いた
20代後半のとき、バイクに乗って事故に遭ってしまった弟さんがいます。
脳挫傷の後遺症で車椅子を使用することになり言葉を発することもできなくなりました。
お姉さんから、「父が弟の保佐人をやってきた。裁判所から指導されることもなくやってきたのに、監督人をつけるか弁護士等の資格を持つ保佐人を追加するかのどちらかを2週間以内に選んで答えろという手紙が来た。父は気が動転し夜も眠れません」と電話がありました。
早速、ご自宅へ行き、主役である弟さんに話しかけると通じている感じがしたので、「わかっているんじゃないですか?」と聞くと、「そうなんです、少し打つのは遅いけど携帯でやり取りできる」というので、ラインを通じてやり取りすると完璧に話が成立しました。
「これは外せる」と確信しましたが、保佐を外すには保佐ほど悪くないという診断書を医師からとり、家庭裁判所の面接調査と鑑定医による鑑定を経なければならず、数か月程度かかるので、目先の課題である監督人と追加保佐人を回避する策を講じました。
具体的には、弟さん名義で5500万円分の年金保険に入りました。お姉さんに3600万円の現金を預け毎月10万円ずつ弟さんに渡す信託の設定をしました。保佐人であるお父さんを除く家族と親族に110万円ずつ、これまでのお礼として渡しました。これにより1億円近かった弟さん名義の預貯金が数百万円になり、その旨、裁判所にお父さん保佐人が臨時報告したところ、監督人も追加の保佐人もつかないことになりました。
そもそも、監督人や追加の保佐人がつくのは、本人名義の預貯金が例えば1000万円以上ある場合なので、そのルールを逆手に取り、本人名義の預貯金をほかの形に付け替えることで減じ、無駄な監督人や追加保佐人を回避するのです。この際、お父さんが代理権を使って、保険を買ったり、信託を設定したり、贈与すると、「権利の濫用」と家庭裁判所に言われかねません。あくまで弟さん自身がそれらの取引を行い、お父さんはそれに同意するだけのスタイルを取るのがポイントになります。本人がしたのであれば、財産処分の自由という思想があるので家庭裁判所といえども、とやかく言えなくなるからです。
そして、本丸の保佐取り消しの手続きに入りました。結論からして、保佐が外れ裁判所からサヨナラすることができたのですが、そうなるまでに1年かかりました。というのも、「補佐を取り消したいから現在の弟の状態を診てほしい」とお姉さんが主治医に伝えたところ、「えっ?僕は書けないよ。裁判所から言われたら書かなくはないけど」と、言って診断を拒否し続けたからです。
他のドクターに頼んでも、「主治医がいるから掛けない」と断られ続けました。
お姉さんはあきらめかけましたが、「主治医のところへ一緒に行くからもう少しがんばろう。弟さんは保佐ほど悪くないのだから保佐を続けることはダメなんです」と言い、筆者も主治医のところへ行きました。
事情を説明し、主治医が診断書を「書くには書く」ことになりました。
知能検査を経て、ようやくできた診断書を見てビックリ。「判断不能」という結論だったからです。これでは保佐取り消しの手続きに乗せづらいので、さらに探したところ現実を正しく反映する診断書を書いてくれるドクターと出会うことができ、その資料をもとに保佐でないことを証明し、裁判所での本人面談を経て保佐が取り消されたというわけです。
相談の電話を頂いてから21か月、保佐そのものが始まってから15年、ようやく弟さんの状態に合わせた本来の形に落ち着くことができたのです。
保佐を始めたときの診断書を見ると保佐をつける必要はありませんでした。
しかし、事故直後はパニック状態ですから保険会社に言われるがままでも仕方ないでしょう。取り消しに際しても、正当なドクターに巡り逢うまでが本当に大変でした。測定方法の問題もありますが、接見も医者次第という側面は現実にあります。