成年後見制度は、お金持ちの高齢者のものと捉える人が多いのですが、成年後見制度の利用者の4割は65歳以下で、知的障害、精神障害、高次脳機能障害などを持つ方々が利用しています。障害者の後見をめぐる惨状は高齢者後見トラブル以上に酷く、その実態を見て、「障害を持つ子を天国に一緒に連れていきたい」と嘆く親御さんもいます。しかし、それもできないわけで、障害者に関する後見の現実に向き合い、現状を打開していくしかありません。
以下、「何とかしてほしい」と後見の杜に寄せられた実際に起こった事例を紹介します。
「成年後見制度の落とし穴」著者 宮内康二 発行元 株式会社青志社
長男は重度知的障害、次男は軽度精神障害のお母さん
訪問入浴のヘルパーさんが自宅で長男の入浴介護をしていました。「ガシャーン」と大きな音がしたので駆けつけると長男がお風呂場で倒れていました。その場にいたヘルパーはこともあろうに素知らぬ様子で、お母さんが救急車を呼びました。診断の結果は腰骨3本の骨折。
ヘルパーの態度がひどかったので派遣元の介護事業所へ苦情を入れると、「だったら明日からいきません」と電話をきられたそうです。ひどいと感じたお母さんは、息子さんのために入っている保険会社に電話をし、弁護士さんを紹介してもらいました。
会ってみると、「わざとケガをさせたという傷害の立証は難しいけれど、一方的にサービスを打ち切ってきたことについては勝てると思います」と理解を示してくれたので一安心したそうです。「ただ、裁判してほしいとご長男から依頼を頂かないといけないので、お母さんが後見人になってお母さんが依頼してくれれば戦えます」とのことで、2週間ほどで裁判所に出す資料を書き上げ、弁護士事務所へ持参すると、「とても良く欠けています。これならお母さんが後見人になれる!」と太鼓判を押され、お母さんは裁判所へ書類を提出しました。
裁判所での面接を経て、裁判所から来た封筒を楽しみに開けると、後見人は、お母さんではなくその弁護士になっていました。「なんで?」と思い電話すると、「私の方にも手紙が来ています。裁判所が決めたことなので仕方ないです」とそっけなく言うのです。
「これが最初におかしいと思ったことだった」とお母さんは振り返ります。
裁判所に出した資料に弁護士のことは一切書いてないのに、なぜこの人が後見人になったのか釈然としない気持ちで事務所へ行くと、2回目のおかしいに遭遇します。後見人になった弁護士から、「考えたのですが裁判は辞めましょう。お母さんの気は晴れるかも知れないけど、先の長い息子さんにはむしろ不利益になります。地元の介護事業者とは長く付き合っていかないといけないから」と言われたからです。
だったら何のために後見を使ったのかとお母さんは思いました。“もはや信用できない”と他の弁護士や自治体の福祉課に相談したものの、「できることはない」、「後見人に任せるしかない」と八方ふさがりとなり、後見の杜にご連絡を頂きました。
工夫の結果、弁護士後見人は辞任し、お母さんと長男のいとこが後見人になりました。その後、いとこに事情ができ後見人を降りることになり、先々のことを考え、地元の市民後見NPO法人を後見人として追加し、現在はお母さんとNPO法人で長男の後見をしています。後見を外すことができれば良かったのですが、長男の状態からしてそれは無理で、次善の策として後見人を替えることのサポートをした次第です。
お母さんからお手紙を頂きました。お礼に後見の杜の活動にご協力いただけるというお言葉に甘えて、後見セミナーでお話し頂いたところ、「後見はころごり、弟には後見を使いません」と断言する姿が印象的でした。
お母さんが裁判所に出した書類に書いていない弁護士がなぜ後見人になったのでしょうか。
それは、裁判所の面談で、「誰かに後見のことで相談しましたか」と聞かれたお母さんが、相談した弁護士の名前を言ったからです。裁判所は、「関わっているようだけどこの案件の後見人やる?」と弁護士に打診し、その弁護士が「やります」と言ったから後見人になったのです。この点、「裁判所が決めたことなので仕方ないです」とお母さんに説明した弁護士の説明は不適切でした。
誠意があれば、「後見人はお母さんがやって、私は裁判を引き受けることになっているのから後見人にはなれない」とオファーを断ったでしょう。
