日本における障害者後見トラブル

成年後見制度は、お金持ちの高齢者のものと捉える人が多いのですが、成年後見制度の利用者の4割は65歳以下で、知的障害、精神障害、高次脳機能障害などを持つ方々が利用しています。障害者の後見をめぐる惨状は高齢者後見トラブル以上に酷く、その実態を見て、「障害を持つ子を天国に一緒に連れていきたい」と嘆く親御さんもいます。しかし、それもできないわけで、障害者に関する後見の現実に向き合い、現状を打開していくしかありません。
以下、「何とかしてほしい」と後見の杜に寄せられた実際に起こった事例を紹介します。
「成年後見制度の落とし穴」著者 宮内康二 発行元 株式会社青志社

目が見えない弟さんの保佐人をしていたお姉さんからのメール

次のメール相談が飛び込んできました。
「今年2月に母が亡くなり、被保佐人に法定相続以上の分与をという裁判所の理念に乗っ取り相続を実行したところ、預貯金が高額になったという理由で監督人を選任されました。」その審判が下りる前に、私は両親が障害のある弟のために生涯をかけて築いてきた弟への財産を、その労苦を知っている私に引き続き守らせてほしいと訴えました。文書にするようにという事務官の指示にも従いました。それに対して何の反応もないまま、一方的に審判が下り、異議の申し立てを認めないとあります。
被保佐人の弟の所へも文書で、「監督人をつけるにあたり意見があれば申し述べよ」と通達がありました。が、それは期限のほんの数日前に届き、さらに驚くべきは、弟の障害は全盲であることを無視するかのように「文書で述べよ」というものでした。
ほんの数日後に期限が迫っているなか、入所先のグループホームの施設長が代筆して、簡易書留速達で「これまで通り、姉にすべて任せたい。監督人の選任は無用」という主旨の文面を送ったにも関わらず、裁判官からは無しのつぶてのまま結論付けられました。
両親の苦労や弟への思いが、この理不尽な制度に踏みつけられるのは耐え難く、金額の詳細は年間24万円ほどと大雑把な提示ですが、弟の老後までの年数を計ると、まさに老境に入るまでには、今回母から受けた金額相当が監督人である見ず知らずの弁護士に持って行かれる試算になるようです。
「耐えがたく、眠れない日々が続き只々辛く、この制度を勧められたとはいえ、受諾してしまったことを強く悔んでいます。どこにも相談する術もなく、藁にもすがる思いで、こちらの相談窓口にたどり着きました。何卒、助けてください。審判が下されて以来、毎日が苦しいです」。
要するに、目が見えないことで成年後見制度の補佐を使っていたところ(そもそもそれは間違った使い方ですが)、相続が発生し、被保佐人の財産が増えたことだけを理由に、家庭裁判所が監督人をつけてきたという骨子です。
監督人をつける手続きの過程においては、被保佐人の意見を聴かなければならないという法律があり、通常は面談をするのですが、文書で回答せよと全盲の被保佐人に文書で通達してきたのです。
お姉さんにして「ショックだった」という家庭裁判所の仕事ぶりが不適切であることは言うまでもなく、追って世の中から沙汰が下るでしょう。
相談メールを頂いてから3か月後、お姉さんから「ご指導に本当に感謝です!」とメールが来ました。施設やドクターの協力もあり、この間に、弟さんの保佐を取り消すことができたからです。もちろん監督人も何もなくなりました。
良かれと思って後見を使った人ほど後になって苦労します。そして、残念ながら事態を改善してくれる専門機関は皆無に等しいのが実情なのです。使うだけ使わせて、あとは知らないという運用や利用促進はダメでしょう。市町村は、申し立てや費用助成など、後見制度の運用に関わっていることから、都道府県が後見の苦情対応・事務支援機関を設置することが必須だと切望します。