日本における障害者後見トラブル

成年後見制度は、お金持ちの高齢者のものと捉える人が多いのですが、成年後見制度の利用者の4割は65歳以下で、知的障害、精神障害、高次脳機能障害などを持つ方々が利用しています。障害者の後見をめぐる惨状は高齢者後見トラブル以上に酷く、その実態を見て、「障害を持つ子を天国に一緒に連れていきたい」と嘆く親御さんもいます。しかし、それもできないわけで、障害者に関する後見の現実に向き合い、現状を打開していくしかありません。
以下、「何とかしてほしい」と後見の杜に寄せられた実際に起こった事例を紹介します。
「成年後見制度の落とし穴」著者 宮内康二 発行元 株式会社青志社

弁護士等が後見業界に参入する本当の理由

お母さんが亡くなりお父さんが再婚しました。お姉さんは家から離れましたが中学生だった弟さんは離れることができず、後妻さんともうまくいきませんでした。弟さんは、大学時代に宅建の資格を取るなどまじめで、時にユーモラスな性格だったようですが、社会人になって間もなく精神状態が不安定になり、お父さんと大喧嘩をして精神病院に長期入院となりました。お父さんが亡くなり相続が発生しました。「弟さんに後見人をつけないと相続できない」と言われたお姉さんは仕方なく後見の手続きを取りました。
弁護士後見人による横領事件が新聞を賑わしていたころだったので、「ちゃんとやって頂きますよね?」と確認したところ、「失礼な!私は法律家よ。私と話をしたければ弁護士を通しなさい」とその弁護士後見人は怒って回答したそうです。そのような入口もあってか、病院で弟さんが急逝するまでの14年間、後見人は弟さんに一度も会いに来ませんでした。会わないで何がわかるのか、会わないで仕事ができるのかと思ったお姉さんは、弟に会わない理由を後見人に聞くと「怖いから」「会っても仕方ないから」という趣旨の発言を返して来たそうです。そんな後見で1200万円の報酬を取られました。平均して年間82万円、これを10人でもやれば年収820万円となります。弁護士等が後見業界に参入する理由はここにあるのでしょう。あんな人に弟を任せていられないと思ったお姉さんは、「自分も後見人にしてほしい」と申し立てましたが、「今の後見人に問題がないので追加の後見人は不要につきお姉さんを後見人にしません」と家庭裁判所は後見人の追加を認めませんでした。
その後、弟さんが急逝します。原因は不明ですが、唯一の身内であるお姉さんには心を開き、音楽を好み、トイレへダッシュで行ったり元気だった、私と同じ年の弟さんの訃報にびっくりしました。主役がいなくなったので後見は当然に終了しました。どのような後見をやっていたのかを調べるために14年間分の資料を裁判所から取り寄せ、お姉さんと隈なく確認したところ、「弟さんが相続していた」実家が売られていました。
なるほど、「家にある宅建の免許状を取ってきてほしい」と言われたお姉さんが後見人に、家の鍵を渡すか、一緒に行ってほしいとお願いしたのに意味不明な理由で断り続けたわけです。実家の売却に伴い自宅にあったお姉さんの私物も勝手に処分されてしまいました。後見人が実家を売った値段にも問題がありました。1700万円は安過ぎると思ったので不動産鑑定士に依頼したところ、売却当時で2850万円、今ならもっと高いという鑑定結果が出たのです。「言ってくれれば相場で買ったのに。実家を取り戻せたのに」というお姉さんの横顔はどことなく寂しそうでした。金額について元後見人に尋ねると、「そこはメッキ工場だったから」と回答がありました。「汚染調査や撤去費用を買う人負担にするという条件で売った。差額は汚染調査や撤去費用だから問題ない」とのことでしたが、そこがメッキ工場だった事実はないのです。区役所で調べてもメッキ工場としての届け出はありません。そこに住んでいた人が言うのですから間違いありません。実家を買い取った不動産屋をお姉さんと一緒に訪ねると、「メッキ工場だったかどうかは誰も調べていない。メッキ工場だろうという前提で売買が成立した、「こちらから提示した金額に後見人は二つ返事でOKした。何やら急いている様子だった」ことがわかりました。細心の注意を払い、被後見人の財産を適切に管理処分するという善管注意義務などあったものではありません。不動産屋さんに聞いたことを改めて照会しても前回と同じ回答しか返ってこなかったので、お姉さんは弁護士を通して元後見人を訴えました。判決が楽しみですが勝ったところで差額が戻ってくるだけです。
実家も、お姉さんの私物も、弟さんの写真も戻ってきません。このような人物が千代田区の福祉法律相談を今もなお担当しています。なお、弁護士後見人を訴える裁判を引き受けてくれる弁護士は少なく私の知る限り、残念ですが数名しかいません。

日本における障害者後見トラブル

成年後見制度は、お金持ちの高齢者のものと捉える人が多いのですが、成年後見制度の利用者の4割は65歳以下で、知的障害、精神障害、高次脳機能障害などを持つ方々が利用しています。障害者の後見をめぐる惨状は高齢者後見トラブル以上に酷く、その実態を見て、「障害を持つ子を天国に一緒に連れていきたい」と嘆く親御さんもいます。しかし、それもできないわけで、障害者に関する後見の現実に向き合い、現状を打開していくしかありません。
以下、「何とかしてほしい」と後見の杜に寄せられた実際に起こった事例を紹介します。
「成年後見制度の落とし穴」著者 宮内康二 発行元 株式会社青志社

ダウン症のいとこのことを弁護士に「ペットみたい」と揶揄された

Aさんはダウン症で兄弟姉妹はいません。Aさんのお母さんが亡くなり、「私が死んだら息子を頼む」と頼まれていたおじさんがAさんの後見人になりました。
Aさんの両親は、かなりの現金と家賃収入の入るアパートを2棟残してなくなりました。裕福だったわけではなく、節約に節約を重ね、Aさんがお金に困らないよう築いた遺産です。
Aさんの相続による財産額が多かったせいか、弁護士の監督人もつきました。
その監督人が家に来たとき、初めての人に愛嬌を振りまくAさんを見て、「ペットみたい」と揶揄したそうです。Aさんの人となりに興味がないのか、親戚からの情報提供もたいがいに、「アパートを見せてください」と言い、車の後部座席からアパートを眺めては、「これは売れるな」などとつぶやきながらメモを取っていたそうです。
後日、「Aさんを秋田の施設に入れてください。区役所と裁判所との話はついています」と言い出しました。これまで一緒に住んできて何の問題もないのになぜ?と思いながらも監督人がそう言うのだからそうするより他ないのだろうと考えてしまい、おじさんは、Aさんの後見人として、見たこともない遠い施設への入所手続きを済ませました。移動の日、嫌がるAさんを無理やり押し込め北へ車を走らせ、「僕も乗せて帰って!」と必死なAさんを振り切り泣く泣く帰京したそうです。
それから2年を経て、やはりおかしいと考え、後見の杜へのご相談を頂きました。いろいろ工夫し、結果的に本人は帰京、現在は実家近くの施設で穏やかに暮らしています。
一連の出来事や都市のせいもあり、おじさんが後見人を辞めるのは認められましたが、いとこが後見人になることは認められず、代わりに、ペット発言の監督人がAさんの後見人に昇格しました。これが裁判所のやり方です。
後見人になるための面接でいとこは、それまでの監督人の不適切な言動に苦情を入れました。そのせいか面接担当の調査官レポートに、「後見人候補者は専門職後見人に対し批判的である。面接を受けてもその態度は変わらず、後見人としては不適と思われる」と明記されていました。
いとこをペット呼ばわりされた相談者は弁護士会に懲戒請求しましたが不問とされました。
そのような価値観がまかり通る組織に所属する人にわが子の後見人をやってもらいたい親御さんがいるでしょうか。
家庭裁判所もペット発言の事実を知りながらその人物を後見人や監督人に多用しています。ペット発言の弁護士は某弁護士会の成年後見委員会副委員長を努め、成年後見に関する書籍を執筆し、後見監督人や成年後見初任者研修を担当しています。なるほど、こんなことがまかり通るなら、弁護士の後見の質は、下がることはあっても上がることはないでしょう。
人として、人間として、もっと思いやりのある接し方を望みます。