「成年後見制度の落とし穴」著者 宮内康二 発行元 株式会社青志社
自分の都合で、任意後見を壊し法定後見に切り替えた司法書士
身寄りのない70代後半の女性と後見を引き受けるNPO法人が任意後見契約を結びました。女性の認知症が進んだので、後見のNPO法人が家庭裁判所に任意後見をスタートさせる手続きを取り、某公益社団法人の幹部がその事案の後見監督人になりました。
しばらくすると女性の財産が減ってきました。それに比例し監督報酬も少額になりました。すると監督人は、任意後見を法定後見に切り替える手続きを家庭裁判所に取ったのです。大阪家庭裁判所は、司法書士の申し立てを受け入れ、任意後見を終わらせ、以降は法定後見の「保佐」で女性をサポートする審判を出しました。
任意後見人をしていたNPO法人が保佐人になれたのでまだ良かったのですが、自分の監督報酬が少ないことを理由に法定後見に切り替える手続きを取った司法書士は言語道断です。「お金にならないから自分は任意後見監督人を降りたい」と監督人の辞任を申し立てるだけで十分だったからです。自分の利益のために、女性とNPO法人が、お金と時間と気持ちをかけて結んだ任意後見契約を壊す必要などまったくありません。
依頼者の自己決定権が、司法書士と裁判所により簡単に変更される実情から、政府を挙げて任意後見制度の利用を推進しても、「どうせ、法定後見に切り替えられてしまうんでしょ?」ということで、最初から任意後見契約を結ばない国民が増えるでしょう。不当な鞍替え後見を防止するために、任意後見監督人に与えている法定後見開始の申し立て権をはく奪するのも任意後見制度の利用を促進する重要な法改正といえるのではないでしょうか。