成年後見制度は、お金持ちの高齢者のものと捉える人が多いのですが、成年後見制度の利用者の4割は65歳以下で、知的障害、精神障害、高次脳機能障害などを持つ方々が利用しています。障害者の後見をめぐる惨状は高齢者後見トラブル以上に酷く、その実態を見て、「障害を持つ子を天国に一緒に連れていきたい」と嘆く親御さんもいます。しかし、それもできないわけで、障害者に関する後見の現実に向き合い、現状を打開していくしかありません。
以下、「何とかしてほしい」と後見の杜に寄せられた実際に起こった事例を紹介します。
「成年後見制度の落とし穴」著者 宮内康二 発行元 株式会社青志社
「耳が聞こえないだけで後見をつけるのはおかしい」と戦う家族
昭和17年生まれのTさんは耳が聞こえません。兄弟姉妹はなく両親も亡くなり、Tさんの世話をしてきたおばさんも高齢となったので親族会議を開き、Tさんを、耳が聞こえないを主とすることを売りに開所した兵庫県内の施設にお願いすることになりました。
3年が経ち、Tさんの実家がある広島県内にも耳が不自由な人を主とする施設ができたので、お礼とともに、それまでの施設に引っ越しのことを伝えるや、施設の顧問弁護士が立ちはだかり、「Tさんは渡さない。Tさんに後見人をつける!」と言い出しました。そしてほどなく、Tさんに後見人がつき、後見人と施設がタッグを組み、親族はTさんに会うことはできなくなりました。警察や弁護士に相談してもらちが明かず、在京テレビ局で放送してもらっても施設側の硬直的態度は変わりませんでした。
ご親族からご連絡を頂いたので一緒に施設に行ってみると、何の問題もなくTさんと会うことができました。Tさんが家に帰りたいというのでTさん家族は車で帰宅しました。翌日、施設職員と後見人が家に来て、「Tさんを返せ!」と1時間くらい叫び、呼び出しを推し続けました。
困った親族から電話を頂いたので、怒声や呼び出し音が電話越しに聞こえましたが、Tさんにその声や音は届かず、「少し我慢すれば帰るでしょう」と話しているうちに、施設職員と後見人は撤退しました。雪が降るなか、お疲れさまという感じです。
その後、弁護士後見人は、拉致されたということでTさんに代わって親族を訴えてきました。当のTさんはいつものように穏やかな表情で、テレビを見たり、お墓参りに行くなどの日常生活を満喫しており後見人が言う拉致や高速とは程遠い実態でした。体重も施設にいるころに比べ7キロ近く戻ってきましたが、空気を読むTさんは、「自分がここにいるとみんなが大変みたいだから嫌だけど施設に帰るよ」と表現し、半年間の地元生活を経て施設に戻って行きました。それから3年半が経ちましたが、いまだにTさんと親族を会わせません。
施設弁護士は、「Tさんから後見人をつける依頼を受けたから家庭裁判所に手続きを取った」と言っています。しかし、自分に後見人をつけて欲しいと依頼する知識や能力があるなら、そもそもTさんに後見など必要ないはずです。
Tさんが後見をどのような手話で表現したのか、書面で書いてお願いしたのかどうかも定かではありません。この点、施設弁護士に、Tさんから後見開始の申し立てを依頼されたことを示す資料を見せるように請求してもその資料は一向に提出されません。その資料があるならば見せてほしいと、親族が家庭裁判所に請求しても家庭裁判所はあるともないとも言わず、見せられない「非開示」と言うだけです。
裁判所が指定した鑑定医によればTさんは「保佐相当」でした。後見ほど悪くないという証拠が提出されているのだから法律上、後見を取り消さなければならないのに、家庭裁判所はTさんの後見を取り消しません。取り消すと困ることがあるのでしょうか。弁護士と裁判所のこのような関係がある限り成年後見制度の利用が増えるはずがありません。