成年後見制度は、お金持ちの高齢者のものと捉える人が多いのですが、成年後見制度の利用者の4割は65歳以下で、知的障害、精神障害、高次脳機能障害などを持つ方々が利用しています。障害者の後見をめぐる惨状は高齢者後見トラブル以上に酷く、その実態を見て、「障害を持つ子を天国に一緒に連れていきたい」と嘆く親御さんもいます。しかし、それもできないわけで、障害者に関する後見の現実に向き合い、現状を打開していくしかありません。
以下、「何とかしてほしい」と後見の杜に寄せられた実際に起こった事例を紹介します。
「成年後見制度の落とし穴」著者 宮内康二 発行元 株式会社青志社
法定後見を使うしかないと言われたが任意後見ができた兄妹
64歳になるお兄さんには知的障害、精神障害、認知症があります。92歳になったお母さんから「これからはあなたがお兄さんの面倒をみなさい」と言われた妹さんは1年ほどかけ弁護士、司法書士、社会福祉士、自治体、社会福祉協議会、地域包括支援センター、家庭裁判所などに相談したようですが、一様に「障害があるので法定後見を使うしかない」といわれたそうです。お母さんに報告すると「それじゃあ、誰が、後見人になるかわからないからダメ」と言われたようで、妹さんから後見の杜に相談がありました。
後見の杜では、「今の本人を見る」を原則としているので、妹さんと落ち合いお兄さんを伺うと任意後見でいけそうな気がしました。妹さんとのコミュニケーションが取れているからです。公証人と調整し、結果的に兄妹で任意後見契約を結ぶことができました。
知的障害、精神障害、認知症があるからといって、本人を見ず、法定後見しかないと決めつけるのは偏見以外の何物でもありません。障害イコール法定後見を決めつけ、障がいの度合いによって後見か保坂か補助かなどと知ったかぶりをして対応し、事情を精査せず事務支援を始めてしまう人を見かけますが、これは明らかにミスリードです。そのような初動ミスが法定後見ならではの人事面、費用面、取り扱い面でのトラブルへつながるのです。本人を見ず、法定後見へ誘導する人を見つけたら後見の杜までご連絡ください。
事例に戻ります。任意後見契約に加え、お兄さんと妹さんで、銀行取引や施設契約の代理代行を頼み、頼まれる財産管理委任契約も結びました。いわゆる委任状の大きい版といえますが、これにより、明日からでも、裁判所に関係なく、お兄さんに代わって妹さんが銀行などに行ってお金を下ろし、施設への支払いを済ますことができるようになりました。さらに、お母さんがお兄さん名義で貯めてきた預貯金を解約し、お母さんの口座にそのお金を戻しました。
お兄さんの世話をする前提で、お母さんの遺産のほとんどを妹さんが引き継ぐ遺言も設定しました。これで、将来的に任意後見が始まったとしても、お兄さんに財産があまり行かなくなるので、任意後見監督人の報酬を減らすことができると同時に、より多くのお金をお兄さんのために使うことができるようになりました。
以上で、お母さんからの特命を受けた妹さんの業務設定は首尾よく完了し、安心したお母さん、妹さん、妹さんのご主人、主役であるお兄さんは、みんなで温泉旅行に行くと仰っていました。
1年かけて相談して回った弁護士、司法書士、社会福祉士、自治体、社会福祉協議会、地域包括支援センター、家庭裁判所の言うことにそのまま従っていたら、今ごろ、見ず知らずの弁護士がお兄さんの後見人となり、財布を抑えて、旅行代さえ「意味がない」とでも言って払わなかったことでしょう。相談する人で人生が真逆になることもあるのです。